鰯売恋曳網

  • 五条橋の段
    • 京の五条の橋で博労の六郎左衛門と駕籠に乗った海老名なあみだぶつが行き会い、鰯売りの家督を息子に譲ったなあみだぶつは六郎左衛門に息子の仕事ぶりを訪ねますが、答えようがない様子で去っていきます。
    • そこへやってきた息子の猿源氏は何か様子が変です。鰯も腐りそうな呼び声の息子を叱りつけますが、猿源氏は自分がこうなったのは一目ぼれの恋のせいだと言うのでした。息子は「恋の相手は雲の上の人」だと言いますが、「蛍火」という名前を聞いてみれば傾城で、これはなんとか恋を成就させてやろうとなあみだぶつは思います。
    • そこへまた通りかかった六郎左衛門の連れている見事な馬を見て、息子を近々上洛するという関東の大名「宇都宮弾正」にに仕立て、自分は手引き、六郎左衛門を家老役、鰯売の仲間にも侍に化けてもらって蛍火のいる洞院に行くことにします。
  • 五条東洞院の段
    • 洞院の傾城の薄雲と春雨が、禿の持つ壺を開けさせると、色とりどりに塗られた蛤が出てきました。そこへ来た蛍火に「貝合わせ」という遊びの道具だと聞いて3人で遊び始めますが、中を窺う不審な動きをする庭男がいて、蛍火だけが気付きます。そこへ亭主が来て関東の侍である宇都宮が京入りして、ここへも来るかもしれないから準備しておくように言いつけます。
    • やがて、なあみだぶつの案内で家老に化けた六郎左衛門と猿源氏がやってきて酒宴となりますが、傾城に軍物語をするように言われてしまいます。なあみだぶつと六郎左衛門は思わず耳をふさぎますが、猿源氏は魚の名前を使ってうまく仕方に語って切り抜けるのでした。
    • 猿源氏は酔って蛍火の膝で眠ってしまいます。寝言で「伊勢の国に阿漕ケ浦の猿源氏が鰯かうえい」と言うのを聞いて蛍火は本当は鰯売りではないか?と問いただしますが、あれこれ言って否定する猿源氏。泣きだしてしまう蛍火にわけを訊けば、実は自分は丹鶴城の姫であり、10年前に鰯売りの声にあこがれて城を抜け出し、かどわかされて廓に売られたのだと言うではないですか。慌てて「本当は鰯売り」だと言う猿源氏に喜んで抱きつく蛍火。
    • 恋は成就したものの、身請けの200両をどうしたらいいのかと悩んでいるところへ、さきほどの不審な庭男が現れて自分が丹鶴城から来た者で250両持って姫を連れ戻しに来たと名乗ります。姫はそのお金で自由の身になりますが自分は鰯売りと一緒になるので城へは帰らない、と言うのでした。

蛍火が「女はひとたび門を出づれば帰らずといふ婦道の戒め、後日良人と紀の国へ、鰯商ひに行くときは、丹鶴城のほとりにて『鰯かうえい』と呼びますゆゑ、高殿からなりお顔を見せてと伝へてたも」といったとき、その情景がふっと浮かんでちょっと心が躍りました。親離れできたよい娘ではないですか!