恋娘昔八丈

実際にあった事件を元にしている〜処刑のときに黄八丈を着ていたとか〜そうですが、この作品は処刑直前に助かるというハッピーエンド。いわば水戸黄門的に「必ずいい終わり方をする」という安心感とともに観ることができる作品です。ただ、それだけにそれぞれの人形が個性的でないと退屈なものになってしまう気がします。たとえばプログラムに書いてあるようにツメさんはいかにも「無責任な野次馬」っぽくないと幕前だけに場が持てないと思います。

  • 城木屋の段(前):江戸の材木商城木屋には美しい娘「お駒」がいます。お駒には恋仲の相手がいるのですが、お店が火事をだして困っていたときに助けてくれた佃屋喜蔵と今宵、祝言をあげねばなりません。お駒の恋の相手は、武家でありながら今は勘当されて髪結をしている尾花才三郎。ところが店の番頭の丈八は自分に気があると思いこんでいます。
  • 城木屋の段(切);祝言の話を聞いた才三郎はお駒にだまされていたかと怒り心頭でお駒を叩くのですが、お駒の「そりゃ聞こえませぬ才三さま〜」のくどき〜これが”叩いて気が済むのなら好きなだけ叩いていいから堪忍して”という健気というか、いかにも男性が好みそうなくどきでゴザイマス(苦笑)〜で誤解を解き仲直り。目が不自由で、養子の身ではなんともしがたいという父庄兵衛に「とにかく祝言だけでもあげてほしい、そのあと婿に愛想尽かしをされればいいのだ」と説得されて、お駒は承知するのでした。喜蔵が店に来て得意顔でいると丈八が現れますが、なんと喜蔵は丈八とは昔の悪事の相棒だったのです。喜蔵にお駒をやってなるものかと丈八は駆落ちをしようと口説きます。それを承知しないお駒に「喜蔵を殺してしまえばいい」と毒薬を買いに出ていき、お駒も喜蔵を殺すことを決意するのでした。
  • 鈴ヶ森の段(幕前):ツメ人形が4人出てきてお駒の噂に花がさきます。美しい娘をもったいない、いやいや美しくても心は鬼だ、と好き勝手に話した挙句に「処刑を待ってて寒くなったから茶屋にでも行くか」と、まさに野次馬。そうした群衆の中にお駒の父母の姿もありました。処刑場の様子に泣きだす妻に「もうお駒は殺されたのか」と聞く目の見えぬ父。父は、如来信仰を貫いてきたのにどうして娘がこんな目にあうのだと悲嘆にくれ、絶入りそうになる二人を下男・下女が手を引いて連れていきます。
  • 鈴ヶ森の段(刑場):海近い鈴ヶ森の処刑場に、黄八丈を着て数珠をかけ、馬に乗せられたお駒が到着。見物人に思いのたけを訴えます。群衆の中に愛する人は、父母はいないか、と言うと人垣を分けて父母が近寄ってきますが、いよいよ処刑の時刻、今や最期というところへ才三郎が丈八に縄を掛けて駆け込んできました。殺された喜蔵と丈八は才三郎の親の敵、お駒のご赦免状も持ってきたと代官弥藤次に差出し、お駒は方免となって二親とともに歓喜の涙にむせびます。メデタシメデタシ!