床本「契情倭荘子」けいせいやまとぞうし

このブログは「清之助さん応援ブログ」ですので、これは書いておかないとあかんですわな。景事の床は大抵そうですが、非常に流れがきれいで写していてうっとりします。救いのない切ない話なんですが、甘くて色っぽくて。
 
「契情倭荘子
 世の中は、夢か現かありてなき、蝶となりしが
現にて、蝶となりしが夢かとも。唐土人のたはれぐ

咲くや千草に群れ遊ぶ、二つの蝶のしほらしく。
されば大和の助国は、春の花園秋の野辺、楽しむも
花憂きことも
花になづみし心より、思ひは同じ花に寄る、小巻も
恋の根分草、かなたこなたともつれ合ひ、今は比翼
の諸つばさ。
女蝶
男蝶と浮かれ来て、花に養ふ哀れさよ、二世と誓ひ
し言の葉に、猶さへやらで
娑婆の昔を思ひ草、野辺のたがへし苗代に
堰き止められし恋仲も、末はまゝなる起き伏しに、
かゝよ精出せ
旦那様
こんな縁はから竿の、長き契りの楽しみも、つい
移り気とは知りながら、馴れ初めにしは去年の秋
在所祭りの折柄に、氏神様の鳥居前、参り下向のそ
の中に
私が振りの田舎染め、お前の差してござんした、お
腰のものにかゝつたが、結び染めたる初恋路、焦が
れ慕ふて人伝てに、田の面の雁の文使ひ
オヽわれとてもひたすらに、口説く心の切なれば、
花によそへし返り言
その嬉しさと恥ずかしさ
袖を片敷く新枕
娑婆と冥途も
初春は、いづれ賑ふ門松の。徳若に御万歳と来世も
栄えましますは
誠に
めでたう候ひける。萬安々としやくせんだんの木
の元より、誕生まします釈迦如来、卯月八日に産湯
をそゝぎ、涅槃の雲に霰を降らせ、すでにお茶湯
捧げけるは
誠に
めでたう候ひける、めでたやめでたや、春の初めの春駒
なんどは、夢に見てさへ、よいとや申す申す。月は
桂に花は嵐に連れて勇の駒の足
坂は照る照るなァ
鈴鹿は曇る、あいの土山雨が降る、弘誓の舟の

遊山、三途の川の櫓拍子揃へてヤアシツシ
死出の山
飛交ふ姿はひらりひらひらひらひらひら、ちらちら
ちら。四季折々の花の影、かざす扇はそのまゝに、
蝶よ胡蝶よひらひらひら。払へばとゞめくるくる
くる。修羅の迎ひはたちまちに、狂ひ乱るゝ地獄の
責め、夢に夢見る草の露
おもかげ
ばかり