友だちを楽屋へ案内するとき、一人でちょっと離れて違うものを観ていることが多い。その日その時で目に入ってくるものが違うから。5月公演のとき、舞台の床側で相子さんが皿に盛った塩を持って立っておられたので不躾だとは思ったけれど「それは何ですか?」とつい聞いてしまった。優しい笑顔で「塩です、まくんです」と教えてくださったので「あ、お清めですか」と納得。そしてその塩に浄瑠璃の神さまが降りてくるのを想像して「神聖な神聖な場所なのだ」と身が引き締まった。それなのにこんなぎりぎりに見学の人を連れてきてごめんなさい、という思いをこめて「お邪魔いたしました」と深く頭を垂れ、また天井を見上げたときに眩暈のような幸福感に包まれた。自分もそんな神さまの裾に触れたような気がしたのである。