徳兵衛考

曽根崎心中は好きじゃないと公言している私ですが、今回はお初徳兵衛を見比べたくてAB両方観てみました。「硬質で直線的で濁りのない人形らしい人形を遣う二人」と「柔軟で体温を感じる人間に近い人形を遣う二人」を組んだのは上演を企画した人も見比べてほしいと思ったんじゃないかと思うのです。
実際、好み云々は別として、面白いくらい違いましたね。親しい友だちと一緒に観てたら、さぞかしなんのかんの言いたい放題だったろうと思います。


お初の場合は徳兵衛に合わせる部分も多いと思いますので、徳兵衛の違いが舞台のテイストの違いに影響するんだろうと思います。清十郎さんの場合は相手が違ってもあまり変わらないと思いますが、和生さんはおそらく、玉女さんと組んだらまた違うお初だったんじゃないでしょうか。
勘十郎さんの徳兵衛は、私がそう刷り込まれてしまってるのかもしれませんが「女殺油地獄」の与兵衛みたいにすれた感じがあって、騙される側の人間には思えず違和感がありました。曽根崎の徳兵衛はずるがしこい(ある意味都会的な)人から見たらダサいくらいでないとお初の立場に立ったときに心中へとストンと落ちる気にならないと思うんです。その辺、すごく人間的に描きながらも心中へとすんなり感情を持っていけた簑助さんの徳兵衛は別格だったんでしょうね。私は今まで観た中で簑助さんの徳兵衛が一番好きです。