敵討襤褸錦

この作品は上中下の三段からなり、中の巻から『春藤屋敷出立』下の巻から『郡山八幡』『大安寺堤』の上演になります。

  • 春藤屋敷出立の段:舞台中央の井戸を境に垣根を立てて下手に春藤家、上手に須藤家が配置されている印象的な舞台です。春藤助太夫の三男新七と須藤六郎衛門の妹お霜は恋仲、縁組も順調に進んでいるようです。春藤家の嫡男(次男)次郎右衛門がお酒に酔って帰宅して機嫌よく話しているところに長男助太郎と若党佐兵衛も戻ってきました。しかし一緒だったはずの助太夫の姿がありません。愚鈍な助太郎では要領を得ず、佐兵衛に話を聞くと助太夫はだまし討ちにあって果て、しかも敵の一人は隣家の須藤六郎衛門だということ!次郎右衛門と新七は父の仇打ちに出ようと助太郎を上座にすえて母に出立の許しを乞います。愚鈍な助太郎は母の実の子、次郎右衛門と新七は妾腹です。母は助太郎が一緒では、もしものときに足手まといになってしまうと言ってわが子助太郎を刺してしまうのでした。さて出立のとき隣家ではお霜が、敵の妹では添うことかなわじと自害して果てようとしていました。最後に新七に会いたいというお霜、けれど垣根で見えません。境の井戸に互いの顔を写して最後の別れとなります。
    • 春藤助太夫は何故だまし討ちにあったか〜「先斗町の段」:春藤助太夫は主君に差し出す舞子を選びだすために同僚の須藤六郎右衛門とその部下彦坂甚八を京の先斗町に呼び出します。三人の舞子が「百夜の計歌」を舞い、その中から”おてる”が選ばれますが、そのおてるは須藤の思い人であったために須藤と彦坂は助太夫をだまし討ちにしておてるを連れて逃げてしまいます。(春藤屋敷の段での左兵次の台詞「ハア申し上ぐるも面目ない、今度殿様の御用、御注文の趣に叶ひ召抱へらるるに極りしてると申す女は、かねて須藤六郎右衛門馴染をかけし芸女、殿のお手に入る事を憤り彦坂甚八に心を合せ、彼の女を奪ひ取らんと親旦那を」〜「親旦那を騙し討に」〜「イヤ両人は彼の女を連れ、すぐに逐電仕り所在知れず」)
  • 郡山八幡の段:助太夫を陥れた須藤六郎右衛門と彦坂甚八大和郡山の加村宇田右衛門にかくまわれています。おてるが町はずれの八幡に来て京の肝煎伝八にばったり。伝八はおてるを助太夫に世話した男で、おてるを奪われたために身の代の200両を手に入れそこねたとおてるを責めますが、そこへ宇田衛門が通りかかり、身の代はなんとかすると約束しておてるを預けます。宇田衛門は六郎右衛門から預かっている宝刀を売ろうと思いつき、そこへ通りかかった高市武右衛門親子を呼び止めて刀の目利きを頼みますが、刀は偽物で「鈍刀(なまくら)物切れまいと存ずる」と言われ、宇田右衛門は無銘であろうと切れるかもしれないから大安寺堤の乞食を試し切りにしようと言い出すのでした。
  • 大安寺堤の段:ところは大安寺堤、春藤兄弟は粗末な小屋で非人に身をやつしています。次郎右衛門は痛風で足の痛みのために立つことも難しい状態で新七があちこち敵を訪ね歩いているのですが、兄があまりに痛みに苦しむのを見かねて夜道をおして郡山まで薬を買いに出ていくのでした。次郎右衛門が小屋に入ると、宇田右衛門たちがやってきて試し切りにしようとします。やむなく杖に仕込んだ青江下坂を抜き、我が身の上を明かす次郎右衛門。武右衛門は感じ入り「今日の襤褸は明日の錦」と本懐を遂げるよう励まして帰っていくのでした。宇田右衛門もいったんは帰るふりをしながら、須藤と彦坂を連れて戻り、2人は次郎右衛門を闇討ちにしようとします。次郎右衛門は切りつけられて傷だらけになりながら2人を追い払うものの倒れこみ、そこへ帰った新七が悲嘆にくれていると武右衛門が酒肴を持ち来て、深手だが急所ははずれていると励まし励まし自宅へ連れていくのでした。