十次郎の成長

1部では父の自害を止めて戦の決意をすることで、それまで輪郭のぼやけていた”まだ少年だった”十次郎がはっきりした意志を持ちます。急に数歩前に歩み出る感じです。ここまでが長い。
千本通館で春長の仕打ちを家族に打ち明けるときには「こんなひどいことがあったんですよ〜」とまだ子どもっぽく訴えるような感じがあって、この段階ではまだ”武智家の子ども”なんですね。初菊と一緒の様子も妹といるような雰囲気です。妙心寺の最初で「この鈍感!ニブ!」と言われてあたふたするあたりもまだ初々しい(笑)。それが「父と戦に」となった時点で”武智家の武士”として父と同じ足場に立つわけで、ここでもう女子どもとは一線を画す雰囲気になってくるわけです。豹変する感じ。なのですが「待て!次号」っていう風に1部は終わってしまうのでした。
2部になるとぐんぐん変化します。人形も変わるのでこの変化は人形遣いさんもやりやすいでしょう。この段階では「自分は父に命を預けた武士」という意識で「女たちに悟られまい」と強がって心に「サヨナラ」を秘めて挨拶に来るのですが、そこは人間としてのキャリアが違う婆さま、祝言にかこつけて別れの杯を交わします。まだ若い青い十次郎は辛さもいや増しますが、それも乗り越えて勇猛果敢に出陣。ぐんぐん大人になっていくのですが、手負いになって帰ってくるわけですね〜(涙)。戻ったときは首が源太になっているのもあるでしょうが、すっかり「大人」です。修羅場で敵中を斬り抜けてけてきた強さを纏っています。
しかし、何故戻ったかと言えば「父を逃そう」という一心、こんな孝行息子を死に追いやらねばならなかった祖母と母の悲しみ、それを知りつつ坂道を転がりだしたような己を止めることも出来ない光秀の苦悩。圧巻の段です。
前回観たときは光秀がちょい濃すぎて浮いていたのですが、十次郎が濃い目になったら今度は久吉が薄く感じました。バッチリ!という空気はまだ味わえていません。次回に期待。